Interview
−専門の脱活乾漆造の特徴は?
脱活乾漆造の工程は、大きく分けて@塑造原型の制作A布着せB掻き出しC心木挿入D木屎(こくそ)成形E仕上げ(漆箔、彩色等)の工程に別れています。
@まず、塑像の心木を制作し、土を盛って大まかな形を作ります。
A塑像原型の表面に麻布を糊漆で数枚貼り重ね、乾漆素地を作ります。
B布を貼り終わったら背中や頭部等に蓋をつくって、土を掻き出し、
塑造の心木を取り出します。
C像の強度を増すために、再び心木を像の中に入れます。
D竹箆(たけべら)等を使って木屎漆を乾漆素地に盛り、細部を作ります。
更に錆漆を併用して形の密度を上げていきます。
E砥石などで表面を研ぎ、仕上げを行います。
−乾漆と木彫の違いは?
利点は、表面に木屎漆を盛って細部をつくるので、理想の形に近付くまで何度も微調整ができることです。木彫は基本的にはいったん削ってしまうと、元には戻せないので。
それから脱活の特徴ですが、張子状で中が空洞となっているため、重さが軽い事です。
難点は、手間が掛かることと、かぶれることです。漆は硬化時間あり、基本的に1日1回しか塗れません。その分制作に手間と期間を要します。
また私が新作に用いている堆漆(ついしつ)という素材は漆を何十、何百と塗り重ねたものを素材としています。100回塗り重ねた堆漆の素材を作るだけで、単純に100日掛かります。ちなみに塗り重ねた厚みは、100回で3〜5ミリメートルです。
−いつごろから仏像制作に興味を持ち始めた?
制作ということで言うと、子どもの頃から地元の無形文化財である彫漆など、伝統的な細工に興味を持っていました。私が生まれた香川県の三木町は獅子舞が有名なところで、町のお祭りなどで獅子を使っていました。子ども心にその獅子頭の格好良さに見惚れ、「いつか自分もああしたものを作ってみたい」と思ったこともありました。それらが制作の道へ進んで行くきっかけだったように思います。
仏像制作や研究に関心が移ったのは、香川県漆芸研究所の研究生として学んでいる時でした。『日本の彫刻』という写真集を偶然読み、仏像の造形美に何か新鮮さを感じました。その時は研究所が終わってからの進路についていろいろ考えていた頃でしたが、日本の彫刻についてとにかく学びたいと思いました。
−仏像は、どのような作風?
作風と言えるようなものはまだないと思いますが、自分の得意分野を大事にしたいとは思っています。
修士課程の修了制作で、香川県さぬき市の施薬山悲田院願興寺様が所蔵されている、脱活乾漆造の重要文化財「聖観音菩薩坐像」の模刻制作をさせていただきました。これまで彫刻や漆芸などさまざまな技法を学んできましたが、この模刻を通して、ようやく自分の作品を作ってもいいか、という自信が付いたと思います。
−模刻を通して、なにを得たのか?
作品を作る説得力、みたいなものでしょうか。仏像は信仰の対象として、すでに作る意味があると思います。しかし、自分の制作では作る意味を自分で決めないと、作品の説得力が弱い気がします。芸術には感覚的なことは勿論必要ですが、概念も必要だと思います。それが時代に即するということでしょうか。こだわりも大事ですが、臨機応変に時代の流れに沿うことも必要かなと感じました。
−修復については?
制作と修復は表裏一体で、どちらが欠けてもうまく行かないと思います。修復を通して古典技法をより深く知ることができ、制作の技術も深まっていきます。また制作者であることで修復の時に、作り手の立場になって考えることができ、満足のいく修復ができると思います。
−今後の展開などあれば?
伝統の型を知らなければ、型破りもできないと思います。その意味では、ようやくスタートラインに立ったところです。
基本的に私は何でも臨機応変にやっていこうと思います。乾漆をはじめ、木彫など要望があれば何でもやります。ただ、自分の新作では漆の塊を削り出す、堆漆を素材とした作品を主に制作していこうと思います。
−ありがとうございました。